第二章

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「次こうして会うのは、君の二十歳の誕生日だね。いやいや、ひょっとしたら明日かも」 次こうして会うのは二十歳の誕生日か。 こうして。 「その日に、君は私より一足先に大人になってるんだね。楽しみだなー」 向夏ははぁと白い息を両手に吐いた。それは笑顔を隠しているようにも見えたし、本当に寒いようにも見えた。そうして、マフラーに顔を埋める。 「一足と言っても、たった一日の差じゃないか」 僕の誕生日は四月二日で、向夏は四月三日だった。 マフラーをぐぐっと胸元に下げて、向夏は顔を出す。 「その日には、お父さんのような大人になった君をちゃんと見せてね」 笑顔は季節外れの花火みたく、ぱっと暗闇に咲いた。 頬に朱を差して、髪を揺らして、僕に手を伸ばした。 僕はそれに応えたくて、ビデオカメラを置いて手を伸ばした。けれど、向夏はもういなかった。 向夏はいつも、僕を待ってはくれない。 ひゅるりと吹いた風が、川面を揺らした。 もし、風が吹かなかったら、僕は川面が投影する月や星や街灯の光を、現実のものだと信じて疑わなかったかもしれない。 予めは予めのままで。 二十歳まであと約一年半。 僕は向夏の期待に沿うことはできないだろう。
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