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その日は一日、妻の手を握り締めて過ごした。
それ位しかもう、私にしてやれることはなかったからだ。
不思議と、諸々の現実的な手続きをする気は起きなかった。実際、放心していた。
喪失の悲しみだけではない、
どこかほっとした気持ちも確かに存在した。
妻を笑顔のまま逝かせてやれたことに対する、奇妙な達成感と誇らしさに戸惑いながら、それでも私はようやく終止符が打たれたことに、安堵していたのだ。
我ながら人でなしだと思う。
だが、その時は誰にも取り繕う必要がなかったからか、心底そう思ったのだ。
今までの積もり積もった疲労が込み上げて、妻の手を握り締めたまま、私は眠りに堕ちていった。
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