妻を看取る。

6/11
前へ
/29ページ
次へ
立ち上がり、自分の足で床を踏みしめることで、たったそれだけのことで、妻は泣いた。 自分の頬を両手で触り、滂沱の涙を流しながら、微笑んだ。 その顔は、今まで見てきた妻のどんな顔よりも、美しく見えた。 妻は、ありがとう、と言いながら私に抱き付いた。夢ではない、妻の温もりを感じた。またこうしてこの腕に妻を抱けることが、こんなにも幸せなことだとは思いもしなかった。 当たり前に感じていたものが全て、眩い程の色彩に満ち溢れて、眼前に迫ってくる。まるで極彩色の洪水だ。 世界が今、生まれ変わったのだと感じた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加