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もうそろそろ、妻が目を覚ます頃だ。
充電器からデジカメを取り外すと、いつものようにベッド脇の三脚にセットする。
「おはよう、母さん」
微かに目をしばたかせて、眼球だけが声を追うように動く。
『おはよう、あなた』
そう、目が語っている気がした。
指先を動かすことさえ、もはやままならない。皺だらけの頬は、ぴくりともしない。ひからびた口唇からは、掠れた音さえしない。
だが、心は通じ合っている。
妻が何を望んでいるのか、手に取るように分かる。長年連れ添った相手だ。
以心伝心とは、まさに我々夫婦のためにある言葉だろう。
昨日と同じように、
これまでと同じように、
妻の世話をする。
延々と続いていく毎日の営み。
私も年を取った気がする。
…明日は遂に、妻が逝くだろう。
それを惜しむのか、悲しむのか、もはや分からなくなってきている。
私は、妻を、心安らかに逝けるように、愛せていただろうか。
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