妻を看取る。

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それから妻は嬉々として入浴しに行った。 自分で自分を洗えるなんて本当に幸せだわ、と笑み崩れながら。 妻の中では、何もかもが新鮮で、本当に生まれ変わったような心持ちらしい。まるで蛹から脱皮した蝶のように、新しい自分で、新しい世界を享受している。 そんな妻がとても愛らしく、 とてもいとおしかった。 我々は少しめかしこんで、外へ出掛けた。 あの日果たせなかった妻のお祝いをするために、初めて二人で食事をしたレストランへと向かった。 妻はよく喋り、よく笑い、よく食べた。 とにかく幸せなの、と口癖のように言いながら。 私はそんな妻を、この上もなく幸せな気持ちで見詰めていた。この当たり前で、だからこそかけがえのない、幸せな光景を目に焼き付けておこう、と思った。
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