第1章

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「あの」  今度ははっきりと聞こえた。 声の主を脳が処理するのに時間はかからなかった。 公園に入るときに「こんにちわ」と話しかけてきた女性の声だった。 僕は顔を上げた。  線の細いきれいな顔立ちをした女性はなびく髪を耳にかけながら微笑んだ。  僕に何の用だろう?と思いながら「はい?」と語尾のトーンを上げて答えた。 「マヤちゃん」  僕が目を横に向けると、 女性の横には幼い女の子が立っていた。 もじもじと恥ずかしそうに体の前で指遊びをしている。 「ほら、 マヤちゃん」  女性はマヤと呼ばれた子の背中に手を回す。 どうやら、 僕に用があるのは女性ではなく、 女の子の方らしい。
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