第1章

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 しかし、 僕の目はベンチに座ったまま周囲を見渡していた。 地面にはところどころに落ち葉が積もっており、 もしかしたらその影にブックマークが落ちているのでは?という思いにかられた。 「探してみようかな」  僕は読みかけの本を閉じた。 強風にも負けずに本の間には桜の花びらが挟まったままだった。 花びらから出た液がページにしみつくかもしれないが、 それはそれでいい。 味が出る。 「あの」  本をバッグにしまおうとしたとき、 誰かが話しかけてきた。 僕の影と僕の前に立っている人の影が重なっている。 その横にはもうひとつの影があった。 ぽつんとした小さくてかわいらしい影は、 僕と重なり合う影に引かれているように思えた。
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