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「ファイアアロー!」
父がいるとされる町の外壁の更に外。私たちは魔王の塔と呼ばれる小さな塔に向かっていた。約二十年に一度、町のすぐそばにある魔王の塔に魔王が現れるという伝承がある。それは、伝承とは言え正確な理由が語られている。城で強い魔法の力を持った者が無心に堕ちた時、塔で魔王へと変貌するのだと。二十年前に誕生しかけた魔王は完全な魔王となる前に現在の王に倒され、事無きを得ている。
「なかなか良い動きじゃないか! 流石魔法の成績トップ!」
「このくらい任せてください」
レベル2の魔法で魔物を仕留めながら前を走るゴーフに付いて行く。以前実習で近くの森に出た時よりも魔物の数が多い。それをゴーフは短剣で容易く捌きながら私へと余裕を持って話し掛けてきたりする。私の知る王国の兵士よりも強く見える。しかし、それでいて底が見えない。
魔物の森を抜けてすぐ、魔王の塔の下に到着すると途端に魔物がいなくなる。中は森とは違う強い魔物が住み着いていると聞くが、門の外は静かなものだった。
「ここで少し休んでいこう。ちょっと火を貸してくれる?」
手際よく枯れ枝を組んだゴーフに言われて私は魔法で火をつける。
「ファイアシード!」
親指大の火が枯れ枝に移り、ぱちぱちと小気味の良い音を立てて火力を上げる。
「このくらいの魔法ならゴーフさんでもできるのではないですか?」
道中の魔物に一切魔法を撃たなかった様子から、あまり魔法が得意ではない事は分かる。ゴーフの装備は大きな鞘に入れて背負った大剣と反りの強い短剣だけ。大きな魔物は鞘に仕舞われたままの大剣を鈍器のようにして使ったりもしていた。謎の多い戦いぶりではあったが、どんな魔物も危なげなく倒していたので何も聞かなかった。しかし、レベル1の魔法は十歳にも満たない子供でも全員使えると言っても過言では無いほど簡単な魔法。戦闘に使わなくても扱えるはずだ。
「俺は何も魔法を使えない体質なんだよ。だからこれで戦うしかないんだ」
そう言ってゴーフは短剣と鞘に入った大剣を二刀流のように構えて立つ。しかし、魔法を使えないというのはやはりおかしい。今までの歴史でそんな人物は一人もいない。最低でも学校ではそう習っている。
「魔法の使い方が分からないだけではないのですか? それなら私が」
「俺は精霊から見えないんだ」
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