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精霊――。それこそ眉唾物の噂でしかない存在。魔法を顕現する際に仲立ちをするものとして仮説があったりする。しかし、それも過去の学者が提唱した一つの学説に過ぎず一般的ではない。学校では魔法は術者の意志のみで発現すると習う。
「魔法の仲立ちをするって言う噂の?」
「良く知ってるな。学校では習わないと思ってた。前にも言ったけど魔法ってのは、学校で教わる法則とは少し違うんだ」
ゴーフはそう言って地面に枯れ枝で絵を描きながら話す。
「まず初めに心の力を感情によって波動に変える。その波動を頭でイメージした形で外に放出する。それを大気中に存在する精霊が具現化して魔法となるわけだ」
学校で教わる内容と違う。もしテストでそのような回答をすれば点数は付かない。
「精霊は観測できないから立証もされていません。それはあくまで仮説で、学校で教わる内容とは違います」
「観測できないから……ね。実は簡単に観測する方法もあるんだ」
そう言ってゴーフが腰に下げた袋から一つのメガネを取り出した。レンズにはかなり曇ったガラスが埋め込まれており、かけたところでほとんど見えないと思われる。
「これは魔石をレンズにしたメガネだ。かけてみて」
そう言われてかけてみるが、ほとんど見えずにぼんやりと白く光る雲のようなものが見えるだけ。
「まさか、この白く見えるのが精霊?」
「そう。これはこの国に来て親父が作った粗悪品だけどね。見たことは無いけど透明な魔石が手に入ればもっとはっきり見ることができると思う」
「この国に来てって、ゴーフは外国の生まれなのですか?」
この国に外国との交流の記録はほとんどない。なぜなら、この魔王の塔より先にしばらく行くと強大な魔物が縄張りにしている地域が広く、人が通ることができないとされているからだ。魔王の塔と反対側には切り立つ霊峰。頂上は年中雪で覆われているほどに高く、それを越えた者は記録に無い。過去に魔物の縄張りを超えてきた者がいたらしいが、それも百年以上前の話らしい。
「ああ、小さい頃に血の繋がってない魔術師の親父と一緒にな。この先から来たらしいけど、俺も良く覚えてないんだ」
魔物の縄張りを抜けてきたというのであれば国で最高位の魔術師か、それ以上の実力があるはず。それが人知れずスラムで暮らしていたというのだろうか。
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