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ゴーフが小声で指示をすると、私は頷いて塔の出入り口を閉める。それと同時にゴーフは姿勢を低くして魔物に背後から接近する。ゴーフの間合いに入った瞬間。魔物も気が付いたのか振り返りざまに両手の爪を振るう。しかし、ゴーフは急制動をかけてスウェーで躱した。
刹那。私には見えない速度で振るわれた短剣は魔物の両肘から先を切り飛ばした。
更に、痛みに叫ぼうとする魔物の顎を空いた手で突き上げて口を閉ざさせる。魔物がその勢いで天を仰ぐ形に頭を上げると、ゴーフは容赦なく首を短剣で刎ねた。
息も吐かせぬ一方的で一瞬の攻撃。塔に着くまでの動きで只者ではない事は十分に理解しているつもりだった。しかし、ここまでの道中が遊びだったのかと思えるほどの見違える動きに私は只立ち尽くしている事しかできなかった。スラムで聞いていた何でも屋というのも今となっては信じがたい。持っている知識量、そして戦闘技術がスラムの何でも屋の域を完全に脱している。
「ソフィアちゃん。こっち」
身動き一つ取れなかった私を注意するでもなくゴーフは手招きして呼ぶ。こんな大物が貧乏生活をしてまでルークを目指す理由も不明だ。彼を見れば見るほど疑問が尽きない。
「ソフィアちゃん。敵の縄張りでは集中して。とりあえず一階の部屋を開けるよ」
私が戦闘外の事を考えていたと分かったのか、集中するように注意された。
「一階の部屋ですか? 父は最上階に居るはずです」
「俺たちが上層階を目指している時に後ろから襲われたらたまらないだろ? 部屋があれば全て開けて中の魔物を殲滅して進むんだ」
言われてみれば確かにそうだ。ゴーフに教わる度に自分の戦闘に対する無知さが浮き彫りになっていくような気がする。
「次は扉を開けた瞬間に一気に中に入るぞ。付いて入ってくれ」
「はい」
元は塔の宿直の為に作られたと思われる小部屋に突撃する。ゴーフが扉を開け、私はそれに付いて入ろうとする。しかし――
「待った」
ゴーフはまたしても扉を開けたところで急停止する。もちろん同じく私は対応できずに抱き着くようにしてゴーフにぶつかる。一体次は何が。そう思ったところでゴーフは振り返って言った。
「この部屋にはいないみたいだ」
「……それでも急に止まる必要は無かったんじゃないですか?」
思えば塔に入る時もそうだ。先に一言あればぶつからずに済んだ。
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