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ドラゴンの攻撃を紙一重で避けながら戦うゴーフの姿を見つつ、魔法のイメージを固めて、敵の隙を窺う。魔法を放つ事だけに集中している訳では無いので神経が削られる。学校ではレベル3以上の魔法を動く敵に向けて放ったことは無い。
自然と汗が頬を伝う。
そしてゴーフがドラゴンの腹を裂き、頭を下げようとしたところをカウンターの要領で二発三発と大振りの鞘による打撃で突き上げる。完全に仰け反り、両前足が浮く。今だ! そう思ったところでゴーフも私の方を向く。
「伏せろ!」
そして何かを素早く投擲する。反射的に伏せた私の頭上を煌く何かだ通り過ぎ、背後で炸裂音がする。
「ファ、ファイアスピア!」
イメージが崩れて威力の下がったファイアスピアをドラゴンに放ち、私は後ろを確認する。そこには五階で倒したはずの魔物――ではなく、よく見ると一回り小さい魔物が頭部を失って倒れていた。五階の部屋に隠れていた魔物なのかもしれない。
私が放ったファイアスピアを受けたドラゴンの方も致命傷にはならなかったようで、ゴーフが畳みかけていた。私はすぐさま七階への階段と五階への階段も視野に入る位置へと移動して再度ファイアスピアをイメージする。初めから位置取りをしっかりしておけば……ゴーフの指示に従って各階の部屋の隅々まで調べていれば……。魔物に邪魔されずにさっきの一撃で決まっていたかもしれない。
後悔しても遅い。気持ちを切り替えて、私はファイアスピアをドラゴンのわき腹の傷口に目掛けて撃ち込む。
「ファイアスピア!」
ドラゴンがくの字に身体を曲げて悶える。そこでゴーフがドラゴンの首を短剣で切り裂き、大剣の鞘を突き立てて抉る。奥に刺さる程ドラゴンが暴れるが、次第に力尽きていったのかしばらくして崩れ落ちた。
「ふー」
一息吐いて私のところに歩いてくるゴーフ。相変わらずの余裕のある笑みだが、私は後悔の念に押しつぶされそうだった。
「すみませんでした」
「そこは『助けてくれてありがとうございます。カッコ良かったです。惚れました』って言ってくれないと」
わざとらしく声色を変えてふざけたように言うゴーフ。励ましてくれているのだろうか。気にするなという意味なのだろうか。その気遣いに私は負い目を感じてしまう。
「大技を使って心の力が弱っちゃったかな。これ飲んでちょっと待ってて」
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