22人が本棚に入れています
本棚に追加
城下町の裏手。名物と言えば治安の悪さとネズミとカラス。スラム街と呼ばれた暗がりで私は野蛮な男たちに話しかけられた。
「なにしてんの? こんなとこでなにしてんの? 溜まってんだろ? 分かるよ分かる」
本来の肌の色すら分からないほどに汚れた男が三人。暗がりの更に闇深い場所へと押し込むように私を小突く。覚悟はしてきたものの、肉が腐ったような臭いに鼻が曲がりそうだ。
「あ、あの。私、人を探しておりまして……」
「ああ? 人? そりゃ俺たちの事だろ。良いから奥行けって」
聞く耳がないのだろうか。耳の欠けた大男は私の話など気にもとめずに路地の奥へ奥へと肩を掴んで押し込もうとする。私には時間が無いというのに。
「良い匂いだなー。どっかの貴族の娘か? 麻のフードも綺麗すぎる。家出か? 良いとこに産まれたら欲求も溜まるもんなー。知ってる知ってる」
何を知っているというのだろう。ただただ不快でしかないその口を早く閉ざして欲しい。この人達からは何も得られる情報は無い。早々に立ち去らせてもらおう。
「お話を聞いて下さらないのであれば他を当たらせていただきます」
男の手を払って歩みを進めたところで私は太ももに痛みが走るのを感じた。痛みの元を確かめるように目を向けると、そこには長い釘が刺さっていた。心なしか痺れが広がる。油断した。流石にこれはまずい。
「逃がす訳ねーだろ。ばーか。睡眠魔法が付与された釘だよ。目が覚めた時にどんな後悔の顔が見られるか楽しみだな」
執拗に顔を近づけて話す耳の欠けた大男。私の身体は動けばどうなっても良い。でも目的を果たす為に命を落とす事だけは避けたい。頭がぼんやりとしていく中、私はただ祈ることしかできなかった。しかし遠のく意識の中、男たちの喚く声が聞こえた。
「魔神だ! 魔神が来やがった!」
曇りがかった視界の端で、放たれた矢のように男たちが吹き飛んでいく。誰か……誰かが投げ飛ばしているようだ。子供……? 大男に比べて一回りも二回りも小さい男の子が容易く蹴散らす。魔神――そう呼ばれた少年は、壁を背にして崩れ落ちた私に近付いて声をかけてくれた。
「大丈夫かい? お嬢さん。俺が来たからにはもう安心だよ」
差し伸べられた手を握り返して私は残る気力を振り絞って声を出した。
「お願いします。私の父を殺してください――」
そこで私は意識を手放した。
最初のコメントを投稿しよう!