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次に私が目を覚ました時には小さな木造の部屋のベッドの上だった。藁を何重かに敷いた上に綿の布を被せたベッド。掛け布団には重たい麻の布が使われていた。部屋の中を見渡した限り、私が使っているベッドにどれだけ資金を費やしているのかが分かる。それほどまでに質素、いや貧乏状態だった。
「起きたか?」
ひょいっとガラスも何もはまっていない窓に腰かけていた少年が私の傍に跳んで来る。まるで猿のように身軽な少年だ。足の痛みも倦怠感も何もない。太ももには薬草を塗った布が巻かれていたが、血も止まっている。
「あ、あの。先程は」
「うん! やっぱりすっげー可愛いな! なあ、名前は?」
お礼の一つもまともに聞かずに少年は真っ白な歯を見せて嬉しそうに私の名前を尋ねる。スラムだというのに、その人懐っこい様子に私は警戒心を忘れる。襲われたばかりだというのに今更ではあるが。
「私の名前はソフィアと言います。ここのスラムには、何でも願いを叶えてくれる魔神がいると聞いて探しに来たのです」
「ソフィアちゃん! 名前もやっぱり可愛い! いやー、初めてこのスラムに居て良かったと思ったよ。運命だね! これは! 俺はソフィアちゃんと出会うために産まれてきたんだよ! 絶対そうだ!」
「あ、あの……」
「なあソフィアちゃん!」
「な、何でしょうか」
「腹減らない? 奢るから一緒に飯食おうぜ! デート!」
この人も私の話を聞いてくれないのだろうか? とは言え、親切だし私を助けてくれたことに変わりはない。少しずつ話を聞かせてもらえればいいだろう。
「危ないから手繋いだほうが良い」
「は、はあ。そうなのですか」
郷に入っては郷に従えと言うので、大人しく彼の言う通りにしよう。
「あ、俺の名前言ってなかったな。ゴーフル。是非愛情込めてゴーフって呼んでくれ」
「は、はあ」
一般的な女性よりは背が高い私より若干小柄なゴーフは、私の手を優しく握って引っ張る。どこへ向かうつもりなのだろう。
「行きつけの飯の美味い酒場があるんだ。そこで食いながら話しようぜ」
「魔神と願い事の話もそこで教えて下さるのですか?」
「まあ……行けばすぐに分かると思うぜ」
ゴーフに連れられて入った酒場。まだ日が高いというのに酒の匂いが溢れていた。
「お、エロ魔神じゃねーか」
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