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「惚れた女の為に何でもする馬鹿だよ」
「ははは」
またしてもゴーフの誤魔化すような笑い。
「でも、俺はいつも本気だから! 決して軽い男って訳ではありません!」
私の手を取ってゴーフは真っ直ぐ言った。どうでもいいのだけれど。そんな事より――
「この料理は何ですか?」
「ああこれ? この店の名物。かけうどんだ」
ゴーフの代わりにマスターが答える。私の目の前には澄んだ黄金色のスープに入った紡ぎ立ての絹のように白くなめらかで太い麺。ただそれだけだというのに嘘のように食欲をそそる。魚介を使った出汁の香り。湯気と共に鼻孔をくすぐられ、自然と口の中に唾液が溜まる。丸三日何も食べていないせいもあって胃が奇妙に大きな音を立てた。
「す、すみません。しばらく食事を摂っていなかったもので」
私の謝罪に対してマスターとゴーフは目を合わせる。
「なあ、マスター。いつものクズ回収の報酬はある?」
「あ、ああ。ほらよ」
マスターが足元からパンパンになった麻袋を取り出してゴーフに渡す。
「今日は多いから銅貨二枚だ」
「それでソフィアちゃんにもっと食わせてやってくれ」
「いや、それに関しては俺の奢りで食わせてやる。嬢ちゃん、それで足りなかったらお替り自由だ」
「あ、ありがとうございます。この恩はいつか必ずお返しします」
恥ずかしくはあったが、せっかくの好意には甘えておこう。後でちゃんと返そうと思う。
「マスター! 俺の分ちょっといつもより少なくね?」
ゴーフのどんぶりを見ると、中には私とは違って揚げ物のかすのようなものが沢山入っている。
「そりゃお前、天かす無料っつったって限度があるわ。品切れだ品切れ」
「くっ!」
ゴーフは悔しそうな顔で天かすと呼ばれた物をすする。私もそれにつられてかけうどんとやらを口に運ぶ。麺もスープも暖かく、強い塩気にも何だか安心感が生まれる。柔らかくも噛み応えのある独特の触感は消化に良さそうで空腹でもスッと喉を通る。
「お、おいおい。嬢ちゃん泣くほどかよ。いくらでも食べて良いからな? 何なら他の高い食い物も食べて良いから。全部こいつにツケておくから安心しな」
いつの間に涙なんて流してしまったのだろうか。不意にこぼれた涙にマスターが慌てる。それに釣られてか、店内の他の客たちも集まって来た。
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