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「おいおい! お前ら! おれのソフィアちゃんに乱暴するんじゃねーぞ!」
声を張り上げるゴーフがどんどんと蚊帳の外へと追いやられていき、私の周りは店内にいた男たちで埋め尽くされた。そして彼らは、私が聞いてもいないのに口々にゴーフの過去を語り聞かせてくれた。
ゴーフの過去の女性歴についていくつもいくつも――。尽くしては騙され捨てられ、搾り取られるゴーフの過去の女性歴を。嘘のような女性たちとの嘘のようなエピソードに、私は何も言う事が出来なかった。
ルークの試験を受ける為にゴーフが長年貯めたお金を騙し取られた話なんかは目も当てられなかった。ルークというのはこの国の王女を守るための専属護衛兵のことで、最難関と言われるの試験を突破しなければならない。さらに、試験を受ける為にはかなりの金額を用意しなければならないとか。だからゴーフは質素な生活をして、食事も安く済ませようとしていたのだろう。
それなのに私の面倒をみてくれて、食事までごちそうしてくれたのか。
皆がゴーフを慕うのも分かる気がする。しかし、私にはやるべきことがある。
「あの、皆さん。ここのスラムには、何でも願いを叶えてくれる魔神がいると聞いて探しに来たのですが、ご存じありませんか?」
私の問いかけに一同が顔を見合わせる。一瞬の静寂の後に揃って大声を上げて笑う。
「そりゃー嬢ちゃん。ゴーフの事で間違いねーよ。何でも言う事を聞いてくれるエロ魔神。金の為に、女の為に何でもするエロ魔神。簡単に言うと、単なる女好きの何でも屋さ」
その言葉を聞いて私の頭は絶望と虚無感に支配された。最後の希望だとすがる思いで来たというのに、こんな仕打ちは無い。
「そうですか。すみません。私はこれで失礼します。色々とお話を聞かせてくださいましてありがとうございます」
噂とは違うというのならばここにいる意味はない。大人しく帰って違う手段を探そう。酒場の男たちの人混みを掻き分けて外に出ようとすると、後ろから手を掴まれて引き止められた。
「ソフィアちゃん! 俺がどうにかしてやる! だから話してみろって! ソフィアちゃんの願い。俺が絶対に叶えてやる!」
誤魔化す笑いでも緩んだ笑みでもない真剣な顔でゴーフは私に言った。先程まで酒場の隅で小さく座っていた彼が嘘みたいに頼もしく見えた。
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