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魔法の事は私も真面目に勉強してきただけに気にならないことは無いけど、今は確かに父のことが優先だ。姉が無事かどうか分からないが、無事だと仮定してもあまり時間がないのは確か。
「俺はソフィアちゃんのお父さんを殺さずに助けたいと思う」
「そんな事できるんですか?」
「できる可能性はある。そこでもう一回聞かせて欲しい。ソフィアちゃんの願いってのは何? どうして欲しい?」
父を殺して欲しい――。そう頼んだのは舌の根が乾かないほど前。私はその事だけを考えてこの三日間城下町とスラムを歩き回った。無心に堕ちた者は魔物となり、殺すしかない。今までずっとそう教わって来た。この国の常識。街を囲む壁を越えればどこで魔物に襲われるか分からない世界。動物も人間もいつ魔物に殺されるか分からず、いつ魔物になってしまうかも分からない世界。
父も体の一部が魔物となって闇夜に飛び去ってしまったのだ。その父を殺さずに救うことができる?
「嘘よ。そんなことできるはずがない」
「できないかもしれない。でもできるかもしれない。だからもう一度聞いてるんだ。ソフィアちゃんの願いは何? 本当にお父さんを殺して欲しいのか? 助けることができる可能性があってもお父さんを殺して欲しいって言うんだったら」
「助けてください! 私の父を助けてください!」
ゴーフの目は確かに人を殺める覚悟をした人の目だった。私が願えば本当に父を殺す手伝いをしてくれたのかもしれない。でも、もし、もしも父が助かるかもしれないというのなら。生きて戻ってきてくれるかもしれないというのなら――
「私は父と、母と、姉と……また一緒に暮らしたい」
「分かった。じゃあ、報酬の話をさせてもらおうか」
女が好きだということも聞いた。ルークの試験の為にお金が必要だとも聞いた。
「私の身体で良いなら好きにしてくれて構いません。お金が必要だと仰るなら私に用意できる限りならいくらでも。ルークの試験を受けるつもりと仰るのなら」
「それは割に合わない」
それはそうだ。割に合わない。無心に堕ちた者を殺さずに助けるなんて常識外の事をしようというのだ。私一人の身体では足りないに決まっているし、法外な……それこそ払えない額の金銭を請求されてもおかしくない。
「俺はソフィアちゃんの笑顔が欲しい。今みたいな張りつめた無表情じゃなくてね」
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