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気づいていたのか。僕が手や首を見ていることに。 そんな彼女の手は、相変わらず僕のスマホをいじっている。 目の前の本物の海よりも、切り取られた波のほうが今の彼女には楽なようだ。 繰り返し繰り返し、再生している。 「辞めようかな、って思っていたんです、ここ一週間ほど。 丁度先週クラス会があって、友達と近況報告とかしてて、なんだか自分がみじめに思えてきちゃって。 大学とか専門学校に行った子たちはサークルだの飲み会だので、私のように罵声を浴びせられることもない。 町で就職を決めた子たちは、ランチだショッピングだと毎日着飾ってる。 私なんて毎日上下ジャージで走り回るのは施設内のお風呂と食堂を行ったり来たり。しかも給料は安い」 介護の仕事がきつくて汚くて、薄給というのはよくメディアでもSNSでも取り上げられている。 ましてや高卒だと、厳しいだろうな。 「辞表書こうと思った。でも辞めたところで次に何がしたいとかどこに就職したいとか浮かばない。昨日夜勤あけした後、車に乗って家に帰るつもりでエンジンかけて、気が付いたらここにいた」 あっぶないなあ。     
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