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人の声が近くなったり遠くなったり。
不意にプロペラの音が響く。
音が気になって空を見上げれば、セスナが空を流している。
その後ろに糸トンボみたいな飛行機が白いロープで引っ張られている。
セスナより一回り大きいくせに動力は積まない飛行機。
上手く気流にのったらロープは切り離されて揚力と風で飛ぶらしい。
だいぶ青空は見えるけれど、昨日の悪天候の名残、雨雲はまだ少し残っている。
飛行機は雲にぶつかると揺れる。
ジャンボでも揺れる。
ましてや、動力を持たないグライダー。
僕には怖くて乗れないな。
怖がる自分の考えに、つい笑いがこぼれる。
これから僕が行くところの方がよっぽど怖いじゃないか。
「何撮ってるんですか?」
不意に掛けられた声に体が竦む。
「すみません。脅かすつもりじゃ」
詫びる声に顔を向けると白いブラウスにインディゴブルーのジーパンを履いた女性が僕を見下ろしている。
「あ。海を」
って。バカだな、僕は。
見たまんまじゃないか。
「あ、そうですよね。私ってバカ」
ハッとして口元に手をやる仕草が何だか可愛い。
よく見れば、女性というよりは少女のようだ。
ざっと後ろで髪を纏めているために、幼げな感じの額や頬が丸出しになっている。
「ごめんなさい。
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