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これから夏に向けて、浮き立つ気持ちを懸命に押さえてるような、キラキラと輝くさざ波を起こす。
……どんだけ海が好きなんだ、僕は。
「よく来るんですか?ここ」
あ。
忘れてた。
隣に人がいたんだった。
「昔は……こっちに住んでた頃はよく来ました。あそこの堤防でよく釣りをしたから」
堤防回りに置かれたテトラポットは、魚達の棲み家。
子供の頃、よく父さんと釣りに来た。
「今は違うの?」
「今は、関東です」
そう。大学進学と共に故郷を離れ、地元には帰らず就職も都会で決めた。
「こっちには年に二回帰るくらいです」
「そうなんだ」
今どきの子はこんな感じなんだろうな。敬語や普通語が入り混じっている。
「貴女はこの近くの人?」
流石に三十にもなると気軽にタメ口というのは気が引ける。
「いいえ、谷川市」
谷川市。山のほうだな。ここからだと車で一時間はかかるはず。
「海が見たくて」
体育座りをする彼女の視線の先には彼女自身のスニーカーがある。
海水が染み込んだのか、砂と塩で白いはずの生地が薄汚れて灰色っぽくなっている。
海水?
僕が見る限り、砂浜に降りてきたのは今が初めてのはず。防波堤からここまでは砂浜だけど、濡れていない。それに波は僕たちのところまで打ち付けてきていない。
どういう事だ?
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