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彼女の小さい手がスマホの画面をタップする。 指先、このくらいの年の子にしてはボロボロな気がする。手荒れしているようだ。 よく見ると首筋に引っかかれたようなみみずばれが走っている。 男にやられた? ついデートハラスメントなんて言葉が頭に浮かぶ。 「いいな、これ。心の休まる音」 「波の音ってヒーリング効果がありますよね」 波の音だけを入れたCDも売っているくらいだ。実は僕も持っている。たまに疲れたときなんかテレビもつけず波の音を聞きながらビールを飲んでる時もある。 今日、無理に時間を作ってここに来たのもそれが一番の理由だったりする。 これから向かうところには、ちょっとデッキやCDは持っていけないから。 「他のも見ていい?」 軽く手のひらを彼女に向けて、促す。彼女が嬉しそうに動画を再生させる。 その間に水分補給。 彼女も喉が渇いているだろうか。暑くないとはいえ、潮に当たっていると喉が焼ける。 自分用のペットボトルの他にもう一本、予備のものを出す。 彼女を見ると、両手でスマホを握り右の耳に近づけている。 目を閉じて波の音を楽しんでいるようだ。 見る、じゃなくて聴く、だな。 ペットボトルを彼女の座る新聞紙の上にそっと置く。 『私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ』     
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