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「自分が真ん中にいて、周りでお年寄りが楽しそうに笑っている、みたいな。自分が頑張ったら、一人でも沢山のお年寄りが一日でも長く楽しく過ごせるようになるといい、というか」
つまり。誰かから頼りにされる存在になりたい、っていうところだろうか。
「でも現実は違った。いえ、違うわけじゃないんですけど。
最初はデイサービスで、比較的認知なんかも軽い人が多くて、入浴とリハビリ目的のために来てる感じでほんと楽しかったんです。
でも七月から部署が変わって、ショートステイ、短期で介護の必要な高齢者を預かるんですけど、デイと全然違ってて」
どんどん声が小さくなっていく。ちょっと笑いも必要かな。
僕は彼女の脇に置いたペットボトルを手に取って軽く振り、彼女に手渡しした。
彼女がありがとうとつぶやき、キャップをひねる。
あいにく炭酸は彼女を驚かすほど噴き出ることはなく、しゅわっと音がしただけだった。
「暴言は吐かれるし、杖で小突かれる。
この首、一寸引っ掻かれたんですよね。百歳のおばあちゃんに。オムツを替えようとしたらやめてえって。
でも自分でトイレに行くことはできないんです。だからオムツをしてるのに。
お風呂に入れない利用者さんの体を拭くのに、お湯を使ってタオルを洗って、絞って、洗って。なんやかんやで洗い物も多くて、気が付けばハンドクリームが追い付かない」
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