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「……ん、」  はっとした。  授業中にうたた寝をしていたらしい。心臓がばくばくと早鐘を打って、じっとりと嫌な汗をかいている。  隣に座る京介の頭が肩に乗っていて、すぐに唸り声をあげて背筋を伸ばす。眠りこけて俺にぶつかったらしい。その見慣れた顔を見て、ほっと息を吐く。  彼女と別れたから、あんな夢をまた見たのだろう。 (もうあの頃の子どもじゃない……俺は、普通だ)  そう何度も心の中で呟くけれど、体が震えるほど大きく振動する心臓は、しばらく収まってくれそうもなかった。 (はやく、また彼女をつくらなきゃ)  彼女ができれば、変わる。あんな夢は見なくなる。  この吐き気を催す焦燥感も、思い出す度に不快な温度も、言いようのない苛立ちも、全部なくなるはずだ。好きな人をつくって、そうしたらきっと満たされる。この人がいればいいと思える相手に出会えたらきっと、この胸に深く深く刺さっている棘は姿をなくすはず。  それはまるで呪いだ。本当の愛で、悪い魔女にかけられた魔法は解ける。その愛を、俺は早く見つけたい。 「ね、京介」 「ん、……んー?」  冷たくなった手で、くいっと京介の袖を引っ張ると、再び舟をこいでいた彼が唸りながら目を覚ます。 「また誰か紹介してもらえない?」  大学内で他に知り合いもいない俺は、合コンなんて華やかなものに行ったことがない。一年の時に他の奴らがそうしていたように新歓に片っ端から参加すれば、良さそうなサークルに入って知り合いも増えただろうけれど、京介が「バイトあるし、そんなのに参加してたら金なくなるばっかじゃん」と言うので、それもそうだなと思いやめた。  以来、俺に彼女ができるルートは二つに絞られた。どこかで奇跡のようなきっかけが起こって知り合い仲良くなるか、京介から紹介されるかだ。前者の奇跡は、内気な俺には望み薄だ。だから今のところ京介の紹介に頼りきっている。  京介は横目でちらっと俺を見てから、大袈裟にため息をつく。 「いいけど、ちょっと間あけた方がいいんじゃねーの?」 「そう、だけど……」  普段、あまり見ない京介の難色に、つい視線を泳がせる。  確かについ先日別れた彼女としても、元カレが別れてすぐ他の女の子を紹介されたと聞けばいい気分ではないだろう。
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