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1、
『おーい、ケイ。起きてる?』
コッコッ、と爪で机を叩くような音がする。
俺はゆっくりと目を覚まし、枕元の時計に目をやった。また無意識に目覚ましを止めていたらしい。アラームが鳴る時間を三十分過ぎている。
「ん、……起きてるよ」
『嘘つけ。つかまたパソコンつけたまま寝落ちただろ。ずっと聞こえてんぞ』
「ごめん、起こした?」
くすくすと楽しそうに笑う声は、近くの充電器に繋ぎっぱなしのスマホからだ。声の主―秋葉京介から指摘された通り、パソコンからは動画が流れ続けている。急いで電源を落とした。
『いや全然。つーかまじで早く支度しろよ。またそっちの駅まで迎え行ってやろうか』
「いいって、そっちは今日は午後からでしょ。京介こそもっと寝れるんだから、俺に合わせて起きることないのに。せっかく大学の近くの部屋借りたんだからさ」
『ほっとくとお前全然起きねえじゃん。起こしてやるんだから感謝しろよなー』
「してるって。いつもありがとう」
『心にもねえな。……おうし座は三位かあ』
彼は笑いながら、今見ているんだろうテレビで見た、今日の占いを告げる。その間に俺は急いで着替えた。手櫛で適当に髪を撫でつけ、バッグとスマホを掴む。顔を洗ったり歯を磨くのは階下に行ってからだ。それから家を出ても、電車には余裕で間に合うだろう。
「用意できた。じゃあ学校でね」
『はいはい。なんかあったらメールしろよ』
都心部からやや離れ、下町感が溢れているものの住所を見ればギリギリ東京都。そんな地元の駅から十五分で、俺の通う大学の最寄り駅に着く。偏差値そこそこ、大学に入ればいいだろうという感覚と距離だけで選んだわりには結構マシな学校だと思う。
メールを確認すると、付き合っている彼女から空いた時間に会わないかというメールがきていた。
順風満帆。まさに望んだキャンパスライフを送っている、――はずだった。
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