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「好きな人ができたの」
待ち合わせた学校近くの公園で、向かいに座った彼女は会って三分、じっくりと間をあけてそう告白した。
「ケイ君のことは好きだけど、もっと他に……私よりいい子がいると思うし……」
買ったばかりで結露するペットボトルを両手で弄って、最後にその視線を俺に向ける。黒目がちの目が、期待と、不安によって瞬いた。
その期待は何だろう。落胆が見たいのか。引き留めてほしいのか。あっさり手を引いてくれることを望んでいるのか。
瞬時にあらゆる可能性を考えて、けれど俺が言えるのは一言しかない。
「ああ、そっか……じゃあ、別れよっか」
好きな人ができたと言われて、他にどんなことが言えるのだろう。しかし、彼女の期待には応えられなかったようで、うつむかれてしまった。
(うつむくのはこっちじゃん)
そう内心つぶやいたものの、正直辛くはなかった。
「あっ、貰ったやつ、返したほうがいいかな」
そう言って、ブレスレットを外そうとする。ちょうど一週間前のデートで言った遊園地で、欲しがったから買った彼女のイニシャル入りのやつだ。
「え、いいよ。……その、持ってて。いらなかったら捨てていいし」
返されたって困る。人気なのか知らないが、彼女はやけにそれを欲しがっていたし、そんなことを気にするほど小さい男じゃない。
彼女との付き合いは約一ヶ月。短いといえばそうだし、長く付き合ったといえばそんな気もする。昨日今日の付き合いではないから、もちろん人間としての情はあるけれど、だからこそ、好きな人ができたならそちらに行った方が彼女の幸せだろう。
そもそも両者がお互いを好きである状態で「付き合う」という契約をするわけだから、片方か好きではなくなったなら、その契約はその時点で無効だ。気持ちが離れているのに、拘束する理由はどこにもないだろう。
というのは建前で、本当は。
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