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『――マジ、そいつ見る目なさすぎじゃねー?』
彼女と別れた二時間後、自宅に戻った俺は親友の呆れたような声に耳を傾けていた。
予想通りの反応につい笑ってしまうと、京介は不満そうに声をあげる。
「まあ、いつものことだし」
『なんか平気そうじゃん』
「全然平気ってこともないけどさ、仕方ないかなって」
『今回はどんな理由?』
「好きな人ができたって」
『ふーん』
聞いておいて、京介はその回答に興味がないように、間延びした声をあげた。その姿が目に浮かぶようだ。
メリハリのはっきりした骨格と、まっすぐに伸びた鼻。やや薄い唇は、きっと今はへの字に結ばれている。無駄な肉が一切なく、石膏像のようにほっそりしたほほの上には、芯の強そうな二重まぶたの目が眠そうに伏せられていることだろう。茶色に染められた髪はふんわりとウェーブがかって、柔らかく彼の頬や首にかかり黙っているとキツそうに見える顔の印象を和らげている。
どこからどう見てもイケメンだ。一つ一つのパーツが大きくて、今風の派手さのある顔。そしてその下には、一八〇センチ近い長身。それも小学校から高校まで続けたバスケにより鍛えられた体が、ベッドの上にだらしなく投げ出されていることだろう。
『まー、ケイはさ、本当はいいんだろ?』
「何が?」
『カノジョ』
「え?」
『カノジョ。ケイ、本当は必要ないじゃん?』
どきりとして、一瞬言葉を失った。
一気に血の気が引いていくように、体温をなくしていくのを感じる。心臓は確かに動いているのに、この瞬間ときが止まったみたいに息苦しい。
瞬時に脳裏を過ぎったのは、少年らしい、平たい体のライン。その下に僅かに出来上がっている、筋肉の隆起。
浮かんだ映像を振り払うように、そっと手のひらをぎゅっと握る。京介が知っているはずがない。今まで、うまく隠してきたんだから。
「な、んで?」
京介の返事を待つ間、ドキドキと大きく鼓動をし始めるのを止められない。呼吸を荒げそうになるのを必死で抑えた。本当は、数秒のことだったかもしれない。
『俺がいるからさ、別に彼女いなくても楽しくね?』
「あ、ああ……」
細く小さく、密かに息を吐く。
「いや、そういうのじゃないじゃん。男なんだから彼女の一人くらいほしいもんだって。ゆくゆくは結婚とかさ。俺、結婚願望あるし」
『そうか?』
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