ストーカー

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 いつものように彼女を家に送って行くと、いつもはお礼を告げて家に入って行く彼女が俺を振り返った。 「あの、よかったらだけど、家に、上がって…」  控えめな発言は、普通に聞いたら浮かれまくって当然のものだったけれど、彼女の様子が、俺にはしゃぐことを許さなかった。  元彼絡みで深刻なことが起きたに違いない。そう察し、話を聞くつもりで彼女の部屋に上がったのだが、僅か数分後に、彼女が俺を部屋に上げた理由が判った。  唐突に、彼女の部屋のドアが凄まじい勢いで叩かれ始めたのだ。  チャイムを鳴らす訳でも声をかけてくる訳でもない。ただ、殴るとしか表現できない勢いで、外から誰かがドアを連打している。  業を煮やした元彼が押しかけて来たに違いない。そう思い身構える俺の横で、真っ青な顔で震えながら、彼女は弱々しく首を振った。  事態が信じられないのか、信じたくないのか、何で、と小声で繰り返す。そんな彼女をなだめようとした瞬間、衝撃的な一言が俺の耳に飛び込んだ。 「だって、◯×は、半年も前に死んだじゃない。なのに、何でそこにいるのよ…!」  彼女の元彼は死んでいる…?  だったら今、激しくドアを叩いている相手は誰なのか。  彼女が元彼と別れたことを恨みに思う厄介な友達がいて、死んだ男の代わりに彼女を脅かそうとしているのか?  とにもかくにも、外の人物がやっていることは嫌がらせではすまないレベルだ。一言言ってやらなければ気がすまない。  とはいえ、俺は腕っぷしには自信がないから、対応はドア越しにしようと、玄関先に足を向けた瞬間だった。 「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」  突然外から悲鳴が上がり、先刻までドアが壊れるかと重い程続けられていた殴打がピタリと治まった。  彼女に視線で了解を得てドアを開け、外を窺ってみるが、そこには誰もいないし潜んでいる様子もない。 「ありがとう…」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加