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いたようだ。まだ午後三時だというのに、修学旅行の学生ばりに、かしましい。
通路まで漏れてくる声に、佐々木は一気に不機嫌になった。
「オレ、フロントに言って部屋を変えてもらいます」
「いや、いいよ。どうせ一泊だけだし、ちょっとくらいうるさくても酒でも呑んだら一発で寝れんだろ…」
「えー!!温泉は?夜は何もナシですか!?」
「なんだ~?それこそ修学旅行のガキみたいに、徹夜でトランプでもやる気かよ?オレはもうそんな体力ねーよ。ここまでの移動でクタクタだっ」
溜め息交じりにそう言うと、綾瀬はゴロンと畳に横たわった。
そんな綾瀬を立ったまま見下ろし、佐々木はどこか憎々し気に口を開く。
「これだから、オッサンは!」
佐々木の罵倒に、綾瀬は聞こえないフリを装って背中を向けた。
◇
大島知樹は、二人で仲良く売店を見て回っている弟と恋人を、穴が開くほど凝視していた。
こんな所にいたんだ、捜したよ~とでも言い、偶然を装って間に割って入るべきか?
――しかし、その手は会社で何度も使ってしまっている。
近頃は、どうもそれを矢島に疎ましく思われているような空気を感じる。
重いヤツ…そう敬遠されてはたまらない。
そんな事態は絶対避けたい。
ならば、ここは割って入るようなマネはせず、ただ大人しく部屋で待っているべきだろうか…。いや、でも気になって気になって仕方がない。
知樹は、堂々巡りの悪循環に苛立ち、唇を噛みながら柱の陰にいた。
そんな知樹の姿は、売店にいる一喜と矢島からは確かに死角になって見えないだろうが…その他の方向からは、悪目立ちしていることに本人は気づいていない。
「なんだぁ?あいつ大島じゃん。何しているんだ?」
「ほら、あれ…」
「あー…例の弟か」
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