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 僕は、フルネームで呼ばれたことがほとんどない  きっと、みんな僕の名前を覚えるほどには、僕に興味がないんだろう。  そして、家でも話題の中心は、常に弟の一喜だ。  正直にいうとかなり忌々しいが、それでも何とか努力して、「一喜は僕の自慢の弟だよ」と、僕も言葉を送った。  せめて、知樹は弟思いの優しいお兄ちゃんねー…くらいは言ってほしくて。  でも、パパとママは、そんな僕の言葉なんか全然聞こえていない様子で、いつも一喜を囲んでキャッキャはしゃいでいたけれど。  正直に、「僕だって頑張ってるじゃないか!いつも一喜ばっかりズルいよ!!」って叫びたかったけど……優しくて思いやりのあるお兄ちゃんの仮面を捨てることができなくて、いつも仮面が張り付いたように微笑んでいた。  でも、でも、それでも――…耐えられた。  大きくなったら…高校を卒業したら家を出て、弟からも両親からも離れた別世界で生きて行こうって。  誰も、もう僕を指して「弟の方が優秀だね」と比べない世界で暮らしていくんだって。  だから、僕は有言実行した。  高校を卒業したと同時に家を出て、寮のある会社へ就職したんだ。  もう、これで僕を誰も比べないハズだ。 ――だけど、こんな事態は予想もしていなかった。  弟が、先に社会人になった僕を頼って、一緒の会社へ入社し、同じ寮へ入ってくるなんて!  しかも…しかも、だ。  僕の恋人を――やっと、僕だけを見て愛してくれると思っていた相手を、また横取りするなんて!
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