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 愛しい恋人の名を呟き、知樹は切なげに溜め息をついた。    ◇ 「何だ……シーズンオフかと思ってたのに、団体さんが来ているよ」  綾瀬は、大型バスが三台も泊まっている駐車場を見て愚痴った。  温泉の貸し切り状態を期待していたのに、これは残念だ。  それは佐々木も同様だったらしく、チッと露骨に舌打ちをする。 「ここ、事前にホームページで確認しましたが、どうも大風呂はそんなに広くないようです…団体さんと時間をずらさないと、落ち着いて頭も洗えませんね」 「…オレはいいよ。部屋にユニットバスがついているようだし、シャワーだけで充分だ。お前ひとりで行ってこい」 「えー!なんの為の温泉ですか!?そんなの絶対認めませんよ!」  何故か、佐々木は綾瀬に対し憤っているようだ。  せっかく慰安旅行を計画したのに、この期に及んで、綾瀬がまったく気乗りしない様子にイラついたのか?  綾瀬はホテルに入る前に一服しようと、懐からタバコを取り出し、それを咥えながらポツリと言う。 「……オレは、人前で肌をさらすと…ちょっと引かれちまう可能性があるからなぁ…」 「何ですか?ビックマグナムだ~とかオヤジギャグでも言うつもりっスか?」 「…まぁ、なあ…」  綾瀬は微妙な笑みを浮かべると、カチリとタバコに火を点した。 「――まぁ、せっかくお前が当てた福引だ。料理は豪華らしいし、オレはそっちを楽しみにするよ」 「部屋食じゃなくて大広間ってのがイマイチですけどね。別料金になりますが、部屋食に変えてもらって、ゆっくり夕食を楽しみましょうか?」 「そうだなぁ…そうするか」 「その後は、温泉ですね」 「……悪いが、オレはやっぱり入らないよ」  妙に消沈としたような口振りに、佐々木は首をひねる。
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