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そして、彼はある事に思い至った。
「あ…もしかして、タトゥーですか?」
「…」
「気になるようでしたら、オレ、コンビニ探して大き目の絆創膏でも買ってきますけど」
「いや、そこまでしなくていいよ」
そう言うと、綾瀬は携帯灰皿にギュッとタバコを押し付け、ホテルのロビーへと向かった。
「ちょっと、所長―」
後ろを付いて歩きながら、佐々木はむ~っと膨れる。
「日ごろの慰労を兼ねているんですから、何がなんでも温泉入ってもらいますよ」
「…お前、なんだか意地になってないか?」
チェックインの手続きでフロントに並びながら、綾瀬は呆れたように、背後の佐々木の方を振り向いた。
その視線の先に、妙な動きをしている人物の姿が映る。
(?)
二十代前半の、どこにでもいるような中肉中背の男性だ。容姿は整っている方だろうが、特にこれといって特徴のない顔をしている。男性は綾瀬たちより先にチェックインしたのであろう、このホテルの浴衣を着ていた。
その男性は、なぜかロビーの柱に身を隠すようにしながら、売店コーナーの方を凝視している。
(何を見ているんだ?)
綾瀬は何となく気になって、その男性の視線の先を追うと、先輩後輩風の男性二人組が並んで、あれこれと商品を手に取って選んでいる様子が確認できた。
それを、柱の男性は恨みのこもったような形相で睨んでいる。
「…う~ん…?」
「どうしました?所長?」
「いや、なんでもない。こんな所で口出しする方が常識外れだしな」
丁度その時、チェックインの順番が来たので、綾瀬と佐々木はそれを済ませて部屋の鍵を受け取った。夕食場所の変更を伝え、フロントに案内は断って、二人で部屋へ向かう。
すると、運の悪いことに、二人の泊まる部屋の隣から先は、件の団体さん一行が占めて
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