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ハンカチで目元を覆って、私は自分の心の内を少しずつ吐き出していく。そんな事を言って、私を置いて去っていく彼はとてもずるいし酷いと思った。此処から九州へ行くには、飛行機で行く事になる。それで、彼は飛行機雲を描いていたのかと漸く思考が追い付いた。
「ごめん、ずるいよな」
「本当だよ。なんで、もっと早く教えてくれなかったの?」
「引越しの事? それとも……」
「両方ともよ!」
私も彼を好きだったし、一緒にお付き合いが出来たら素敵だなと思う事もあった。私達は互いに、自分の気持ちを見てみぬふりをして過ごしてきてしまったのだ。切っ掛けやタイミングが掴めなかったとも言える。黒板の白線を消し終えた彼は手持ち無沙汰な様子で、腕をぶらりと下ろした。
「私も好きだよ。ずっと前から」
「そっか、それなら良かった。向こうでも頑張れそうだ」
「何よそれ」
「遠距離でも、俺達なら大丈夫だろ?」
彼は当たり前の様に、私と付き合う事前提に話を進めている。まさか、本当に付き合う事になるとは思ってもいなかったのだ。遠距離なら無理だろうと、私は何処かで諦めの気持ちを持ってしまっていた。しかし、彼は違ったのだ。私達の数週間後、数年後まで考えていた。
「なんでこんな我が侭な人を、好きになっちゃったんだろう」
「なんでこんな泣き虫を、好きになったんだろう」
互いにそう呟いて顔を見合わせた。何故かなんて、理由はつけない方がいい。きっと私は彼を好きになると、決まっていた。そう考えた方が、しっくりくる。
* * *
彼が出発する日は、とてもよく晴れた日だった。青空には、チョークの様な飛行機雲が引かれていた。
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