113人が本棚に入れています
本棚に追加
朝晩の冷え込みが嘘のようにこの日の昼は暖かく髪に隠れたうなじに汗をかいていた。
カツンと杖が鳴る。
キヌから頼まれた使いの為に街へとやって来た晶は手に入れた食料を鞄に詰め込み佐伯の家へと帰っていた。
カツンと杖を鳴らし、アスファルトの上を歩いていく。
いつものように国民服を着ていれば、思ったよりも暑くじんわりと汗をかいた。
「....邪魔だな」
伸びた前髪も邪魔だったが、何より首筋が隠れるほどに伸びた襟足が気になっていたのだ。
一度止まり、用意していた紐で一つに括るとスッキリした。
杖を取り、もう一度歩き始めれば程なくして声をかけられた。
「...晶? 」
聞き慣れたその声に振り向けば、そこには思った通りの人物ともう一人知らない人物が立っていた。
「武雄さん? 」
武雄と同じ形の服装なのできっと学友なのだろうと二人の男を見上げながら思った。
「こんなところで何をやっているんだ...」
「あっ...はい。あの..キヌさんに頼まれて...」
「君は佐伯の友人かい? 」
晶の返事の最中に割って入った男が無遠慮に聞いてきた。
「っ.....」
突然の事にびっくりして目を丸くする。
「違う...うちにいる居候だ....」
すかさず返事をしたのは武雄であった。
「居候? ああ! 前に離れを取られたって言ってたあの居候かっ! 」
晶の存在に合点がいったのか一人大きく頷く武雄の友人。
「はは。こんな美人さんだとは思わなかったな...」
そう言うと男は一瞬ニタリと笑い、晶の剥き出しとなったうなじをヒョイっと撫でた。
「ひゃっ....」
「おいっ! ....」
晶の情けない悲鳴と武雄の怒号は一緒に聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!