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宝くじが当たった。ナンバーズが3万円。『買わなければ当たらない』買わなければ確率は0パーセント。買ったところで確率は低い。しかし、現実として今手元に3万円がある。数日前、夢を見た。5041。この数字が何度も出てきた。視覚情報ではなく、音として。何度も頭の中で囁く声がした。5041。5041。5041。昨日の夕方、初めて宝くじ売り場へ足を運んだ。今日、同じ売り場で換金してもらった。数字の並びまでは当たらなかったが、4つの数字が一致した。浮き足立って家路につく。
我が家へ向かう道には新鮮味がない。ニュースでは散々目にする交通事故も起こらないし、犬を連れた美人に声をかけられることもない。そこにあるのは舗装された道路、点滅する街灯、住宅地。それだけである。とはいえ、ささやかな夢が叶ったのだ。臨時収入3万円。サトルになにか買ってやろうか。離婚してからサトルは遠慮を覚えた。買い物に行ってもスナック菓子ひとつねだらなくなった。自転車を買おうか。子供用のマウンテンバイク。いいかもしれない。自転車を買った残りで自分にもご褒美を、と思ったが欲しいものが浮かばない。ふと私の夢は何だろうと思った。子供の頃は夢に溢れていた。幼稚園の頃は“きかんしゃトーマス”になりたかった。小学校に上がって宇宙飛行士に憧れたが、小学5年の頃に自分が閉所恐怖症であることに気づいてやめた。中高時代はずっと小説家になりたかった。1編たりと書き上げられなかったが。大学以降は、ーー何もない。苦労して受かった大学の入学式で学長が言った。「可能性は無限大だ、なんてことはない」。さすがに大人だったからその意味は理解できたが、信じたくなかったことだったので改めて言われると悲しくなった。夢を叶えられる人間がどれだけいるだろう。サトルには夢を叶えて欲しい。それがどんな夢であっても。
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