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──どうしたらいいの?
なぜあんな考えが浮かんだのだろう。私の選択肢はイエスしかないはずなのに。
これでいいんだと何度も納得してきたし、抱きしめられたりキスをされても戸惑いはしたが、イヤではなかった。
なのにそれを実行しようとしないで、いつまでも先伸ばしにしている。
それでも、いくらなんでも…
―無防備すぎるにも程がある。ましてや何度も―
この二日、頭の中から離れない数々の出来事たち。
出てくるのはため息ばかり。
ずっと、会いたいと声が聞きたいと思っていたのに、どんな顔で会えばいいのかわからない。
どうしたらいい?
明日から出張だなんて、あまりのタイミングの悪さに泣けてくる。
―・・・―
速見さんの事を考えていたのに、いつの間にか河野さんの事に変わっている。
―なんて身勝手な悩み。バカみたい私。―
赤面したり蒼白したり、一人でいると鬱々と考え込んで落ち込んでしまう。
「だからって、早く会社に来なくたって。他に行く所はないのか?」
周囲に人がいないとつい出てしまう独り言を呟きながら、エレベーターに乗り込む。
仕事をしていれば、速見さんが出勤してくるまでの僅かな時間でも、余計な事は考えずにすむだろう。担当が増えた分仕事も増えたし、勉強も必要だ。
それに、今日も歩さんは早く来ているかもしれない。
オフィスに入ると、やっぱり歩さんの姿があり、良かった…とほっとした。
足音で気配を感じたのか、パッと明るい表情でこちらを振り返った。
「あれ?美紗?おはよう早いのね」
私だと認識した瞬間、ほんの僅かに落胆の色が見えたような気がしたが、そんなこと考え過ぎだと吹き飛ぶような優しい笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます。ちょっと…色々ありすぎて、早く来てしまいました」
「ふふっ、色々ねぇ」
“何”かをわかっているように笑み、手に持っていたペンを片付けた。
その動きを追ってデスクに目をやると、参考書の類いの本や書類が目に入った。
「すみません、お邪魔でしたね」
「ああ、これ?大丈夫よ。別に仕事って訳じゃないから。…ちょっとお茶でもしようか?」
「はい」
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