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速水さんの表情からは、なにも読み取ることができない。
私が鈍感なだけなのかもしれないけど。
「─…時より、ショースタジアムで……」
「おっ、イルカショーだって、見にいこうか」
イルカショーの館内放送が流れると、すぐに速見さんが反応した。
こどもっぽい反応に、普段とのギャップの差がありすぎて笑ってしまった。
「くっ…あはは!見たいですイルカショー」
「ん?なにがそんなに可笑しいの?」
「すみません。速見さんが、なんだかこどもみたいにすごく楽しそうだから、つい面白くて」
「…あー…そう?…うん。そっそうだな」
どうやら無自覚だったようで、恥ずかしそうに視線を反らしている。
―ドキン…
なんだろう…すごく…―
「まだ時間あるからもう少し見てく?それとも早く行っていい席確保する?」
「…ッ、あ…私は、ここのエリアを見てからでいいですけど…、前の方行きたいですか?」
「いや、後ろでいいよ」
―ホッ…―
「ふっ…。ホッとしたって顔。イルカ苦手?」
あー…もう、油断した…。しっかり見られてたなんて。
「こどもの頃、張りきって最前列で見たら…頭からおもいっきり水被ってしまったことがあったもので…」
「ぐはっ!美紗も充分面白いよ。大人になって学習したんだな。よしよし、ここを見てから行こう!」
ああもう!恥ずかしい。馬鹿正直に言わなくても良かったのに。
…やっぱり、余計な一言も多すぎよね私。
気をつけよう。
「すごい人の数だな。さっきよりも増えてるな」
「ええ。こんなに居たんですね」
休憩がてら席を確保するためにも、ショーが始まる20分前にはショースタジアムにやって来たが、想像以上の人だかりに驚いた。
それでも正面よりずれた後ろの方は、まだ少し余裕があった。
「はいこれ。熱いから気をつけて」
「ありがとうございます」
スタジアムに併設されている売店で買ってきてくれたホットコーヒーを受け取ると、じんわりと手のひらが温かい。
「この吹きさらしの寒い中で、最前列の人達ってどのくらい前から待ってるんだろうな」
ニヤッと笑って、こちらを見てくる。
「最初の放送を聞いてすぐとかじゃないですか」
「へー、ちゃんと水避けシートを渡されるんだな」
さっきの話を面白がられ、ちょっと仕返ししたくなってきた。
「速見さん…」
「ん?」
「そうやってからかう所…桐谷さんに似てきましたね」
「え゛」
動きが止まって、顔をしかめている。
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