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「うわー…。あの鬼畜な雅也さんに似てきたって言われると、こんなにダメージ受けるもんなんだな」
肩を落とし落胆している姿が、ちょっとかわいい。
「あはっ。何気に酷いこと言ってますね。地獄耳だから聞かれてるかもしれませんよ」
「あり得るなー」
なんて、笑いながら周囲を見渡した。
「また、誰か知り合いに会ったりして」
「えっ!」
身に覚えがありすぎるだけに、速水さんの一言に凍りついた。
こんなところで誰かに会ってしまったら、完全に誤解されるだろう。
そうなれば、女性人気の高い速見さんの事だ、噂も一気に広まって大変な事になるのは容易に想像できる。
―どうしよう…―
「大丈夫だよ、見知った顔は見かけてないから。だからそんなに警戒しないで」
―ハッ…―
顔を上げると、眉を八の字に下げ困ったような、傷付いたような顔で微笑んでいる。
「あ…そうですよね!これだけ人がいて、誰かにに会うなんて、さすがにそう何度もないですよね」
―ゴメン…ナサイ―
謝罪を言葉に出してしまったら、速見さんとこうしていることを否定することになってしまう。
―ゴメンナサイ…―
私の事を気遣ってくれたのに…、一瞬別の事が頭をよぎった。
知られたくない…と。
―なんてずるいんだろ―
「冗談にならない冗談だったな、ゴメン」
―ズキッ―
速見さんは悪くないのに…。
「そんな!…謝らないでください。あっほら、ここまで来て知ってる人に会う方が、ある意味奇跡ですよ。ね!」
後ろめたい気持ちを悟られたくなくて、不自然なくらい明るく返した。
「ははっ。たしかに!」
―ホッ…―
いつも合わせてくれる速水さんの優しさが、着実に私の心の中に浸透していってる。
───『恋愛って、想いつづけるよりも思われる方が…』
やっぱりそうだよね。とても心地いいもの…。
これでいいんだ。
きっとこれが正解なんだろうな。
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