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「楽しかったな」
「はい。可愛かったですね!」
ショーを堪能して、満足感でいっぱいの私達。
「イルカ触ってみたかったな」
ショーの最後に、選ばれた観客数人がイルカと握手できたのだ。それを羨ましがる速見さんがこどもみたい。
―れ…レア!!―
速見さんとプライベートな時間を過ごす事が増えてから、見たことない表情を沢山見るようになったけど、こんなにも素直に感情表現をしている姿は初めて。
「…かわいい……っぁ!」
気づいた時にはすでに遅い…無意識に心の声が出てしまった。
そしてしっかり聞こえてしまったようだ。
「えっ!」
顔を赤くして焦っている。
「あっ、ご…ごめんなさい、変なこといってしまいました」
見てはいけないものを見てしまったようで、私も焦ってしまう。
「あっいや、いいんだ。こどもの頃、そんなこと思ってたなって…思い出して。あー…すっげー恥ずかしい…」
照れ隠しに前髪をクシャっとかき上げ、恥ずかしそうに微笑み返してくれる。
―ドキン…ドキン…―
そんな速見さんの一つ一つの表情に、逐一心臓が反応してしまう。
まるで全力疾走したかのように…。
―とりあえず、落ち着こう。―
速見さんも同じように思ったのか、お互い一呼吸ついていた。
「行こうか」
「そうですね」
微笑んだ表情が、差し出された手が、もう当たり前の事のように自然になっている。
ほんの少し前まで、何の緊張も戸惑いもなく、この手をとることが出来るなんて思いもしなかった。
―うん。きっとこれでいい。―
「次は何のエリアだろう」
「クラゲです!」
「美紗が見たかった所だ」
水族館に行きたいと言った時、会話の中でさらっと話しただけだったのに、ちゃんと覚えてくれていた。
「綺麗ですね!すごーい」
「ああ、綺麗だな」
暗闇の中で、色とりどりにライトアップされたクラゲの水槽に感動して、はしゃいだ声をあげてしまった。
「好きなだけ堪能していいよ」
「ありがとうございます」
その言葉にどっぷり甘えて、一番時間をかけてしまったが、速見さんは急かすこともなく付き合ってくれた。
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