295人が本棚に入れています
本棚に追加
二人で休憩所に向かって歩き出したが、邪魔をしてしまったのではないかと不安になった。
「歩さん何かの勉強中でしたか?」
「んー?あれ?そうねー…。美紗は?どうしたの思い詰めた顔して」
デスクを見た感じ仕事か何かの勉強をしていた様に見えたが、またもや…ひらりとかわされた気がする。
「…やっぱりそんな顔…してます?」
「してるしてる。朝からオバケが出たのかと思った」
オバケって…。そりゃこの数日あまり眠れてないけど、そんなにひどい顔だったのかな。
「速見くんと上手くいってるみたいだったから、うっきうきの上機嫌のはずなのになーんか違うのよね」
―チガウ…―
そう。何か違う。
求めていたはずのものが、願っていたはずのことが少しずつずれてきている。
河野さんを好きだという自覚がある。
それなのに、向けられた速見さんの優しさに惹かれているのも事実。
どうしたらいいいの?
「歩さん、私…」
「おっ、おはよう」
ジャスト?バット?なタイミングで、休憩所の入り口から桐谷さんが出てきた。
「「おはようございます」」
―ホッ…―
桐谷さんが現れて、心の奥底でほっとしている自分がいた。
今の自分の不安定さの勢いにのって、洗いざらい話してしまったら、なんて身勝手なんだと軽蔑されてしまいそうで怖い。
誰かに話して、自分が楽になりたいだけ。
でもそれは、してはいけない気がする。
「あー二人でお茶飲むところだった?美紗ちょっと待ってて、いつものでいいか?」
「はい?」
手に持っていた二本の缶を歩さんに渡すと、桐谷さんはくるっと振り返って自動販売機に向かっていた。
歩さんの手にはブラックコーヒーとレギュラーコーヒーの缶が二つ。
いつも二人が飲んでいるものだ。
―これって…―
もしかしたら、お邪魔なのは私の方?
考えてみたら、朝早くから二人でオフィスにいるのを何度も見ている。
それに、さっきの歩さん…桐谷さんを待っていた?
この二人って…
「美紗!いくぞ」
「えっえ!」
言うと同時に缶を軽く投げる素振りを見せ、慌てて受け取ろうとした。
が、缶は宙を舞うことなく桐谷さんの手の中にあった。
「あははっ。どうぞ、目が覚めたか?」
手渡されたカフェオレを受け取る。
「ありがとうございます。もう、朝から驚かさないでくださいよ」
「呆けてたから、目を覚まさせてやろうと思って」
こうも立て続けに言われると…そんなにひどいのだろうか。
こんな顔を速見さんが見たら、きっと気にしてしまう…。
最初のコメントを投稿しよう!