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「いいえ」
癒者は静かに答えた。
「三食に風呂、寝酒に毎晩ワイン2本」
「良いでしょう。でも部屋は一緒ですよ」
十分過ぎる。喜びを隠して頭を掻きむしる。そしてわかったと呻く。
「ミラー様…」
少年は納得していないようだ。
「大丈夫です、私たちは彼の餌食にはなりえません」
癒者の言葉は聞き流す。
「彼の悪さについてはギルドで聞いてあります。女に節操がない外道です」
マウンタニア人は男色を毛嫌いする者が多い。キリエルも基本的には女しか抱かない。
癒者がその思い込みで安心して自分を仲間にするならありがたい。
美人の女形をたぶらかすつもりがあることを今言う必要はない。
「へ~、マウンタニアにも沿海州人みたいなのがいるんですね」
少年が安心したように顔を緩ませた。
それが腹立たしく食ってかかる。
「失敬な。種蒔きに適齢の大人の女だけだ。沿海州人みたいな節操なしじゃない!」
「うわっ、なんか沿海州人より下劣な言葉が聞こえた」
「なんだとガキが知ったような口ききやがって」
「ガキじゃない」
余裕だった少年が顔色を変えた。
「いくつなんだよ」
「16です」
13歳くらいの子供にしか見えない。
「うぐっ… 俺の半分かよ…」
小さく呟く。
対象年齢だが、昨日の小柄な娘に感じたような関心は湧いてこない。
「この中であなたが1番年上なのに、1番子供っぽいですね」
癒者が艶やかに微笑んだ。
馬鹿にされたと感じ、キリエルはキッとその美しい顔を睨む。
「あなたより少し若いです。私は癒者ミラー。こっちは剣士クロード」
「…廃太子キリエル」
「あら」
ミラーは驚いている風もなく艶やかな笑み崩さない。
「どうせわかってるんだろ。俺の実力もさ」
キリエルはふて腐れた顔で先に歩き出した。
聡い癒者には素性を明かして信用させた方が得だと踏んだ。
先を歩き、後ろで二人がひそひそと話すのを、気になる単語が聞こえるかどうかと耳を澄ましていた。
廃太子、潜めた少年の声にその言葉が聞こえて、少年が自分の事を知らないのだと気付く。
マウンタニア皇国の人間ならば、女遊びの放蕩が過ぎて皇帝の怒りをかったことを知らない者はいない。
皇太子を廃されたことは親交のある諸国にも通達された。
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