マンドリンを背負った魔術師には気をつけろ

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 三人が町に着き、手頃な宿をみつけたころには食堂は酒場の営業になっていた。  厨房に残っていた料理を全て出してもらい、キリエルとクロードがその半分を食べ、ミラーが残りを平らげた。  物の気を力の源にする魔術師とは違い、癒者が己の身を削るため体力が必要であることは知っていたが、予想外の食欲に驚愕した。  それからワインを4本もって部屋に入った。 「ベッドが1つしかないじゃないか」  声を裏返して文句を言う。 「他に部屋がなかったのでね」  部屋にはダブルサイズのベッドが1台あるのみ。 「ベッドは私とクロード、あなたはそこの長椅子です」 「身体の大きさからしたらクロードが長椅子じゃないのか?」  ミラーが癒者のローブを脱いだ。  長袖の緑のシャツに緑のズボンに包んだ身体が骨と皮だけに見える。 「美人だけど鳥ガラみたいだな」  キリエルは遠慮なくいった。 「鳥ガラと寝ても楽しくないでしょう?」  ミラーは得意の艶やかな笑みでキリエルを見下ろした。  キリエルは下心を見抜かれているのかとドキッとした。ミラーの真意はわからない。 「私が大きすぎるから小さいクロードの方が納まりがよいのです」  キリエルは肩をすくめ、宿の者が湯を運んできたので湯浴みをはじめた。 「風呂じゃないじゃないか…」  わかってはいたがぼやく。 「風呂のある宿なんてそうそうありませんよ」  つい立ての向こうでミラーが酒を飲みながら答える。  少年はさっさとベッドに潜り込んだようだった。  湯浴みを終えたキリエルはワインを二本手にして、部屋を出ようとした。 「どちらへ?」 「種蒔きさ」  昨日は三回女の中に自分の種を蒔いた。  今日はしなくても良かったが、キリエルにとってまだ寝るには早い時間だった。  チャンスがあれば蒔けるにこしたことはないとも思っていた。 「戻ったら合図を」  ミラーは空を叩くようにノックの仕種をした。  その数を心に刻んで夜の街に繰り出した。
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