マンドリンを背負った魔術師には気をつけろ

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 娼婦街の入口でやつれた女がスカートの裾をひらひらと持ち上げてみせながら声をかけてきた。 「おにいさん、そのワインをアタシにくれないかい?」  商売女には見えない。病気もない。しかし切実に酒を欲しているのがみてとれた。  精一杯のお洒落なのか安っぽい香水のにおいが鼻につく。  ワインを売って商売女を買う金にするつもりだったが、手間が省けた。  女は路地裏にキリエルを誘うとすぐに防火水槽の樽に手をついてお尻を突きだし、スカートをめくった。  キリエルは性急な女の求めに首を傾げたが、拒む理由もないと思うと女の下着を下げた。 「おにいさん、さっさとすませておくれよ」 「二本ともやるから楽しませてもらうさ」  求めてきたのに女は少しも濡れていない。  キリエルは精油をつけた指で女の鼻に触れた。  身を開いている女に魔術をほどこすまでもない。精油が刺激になって濡れさえすれば良いのだ。  ほどなくして女のそこが濡れだした。 「あん、おにいさん、早く」  さっきはすぐに済ませたいだけの求めだったのが、疼きに煽られた声になっていた。  女は後ろから攻められてイッた後に、更に求めてきて、キリエルはきっちりワイン二本分の働きをした。  女と別れてすぐに自分をつけている男がいるのに気付いた。女の色か夫だろうと踏み、そのままつけさせる。ずっと遠巻きにいて、キリエルが宿に入ると気配が消えた。それを意気地がないと内心、嘲った。  キリエルが部屋に戻ったのは日付が変わろうという頃だった。  クロードが起きていて、少し驚いた。 「汗臭い方がまだ良い匂いだ」  あからさまに嫌そうな顔をして、入室を促し、扉に鍵をかけながら言う。  キリエルは鼻で笑って長椅子に仰向けに寝転び、マンドリンを取って調律をした。  昨日の朝に奏でてから、いじっていなかったが、音の狂いはほとんどない。  クロードが椅子に座って眺めている。 「弾いたら起きるかな?」  顎でミラーを指し示す。 「不愉快な音でなければ…」 「寝ないの?」 「はい」  子供にみえる外見には似合わず、クロードがちゃんとした警護の剣士であることに感心する。  癒者なのに狙われるミラーはいったい何者だろうか。  そんな疑問がちらとかすめるが、知ってどうするでもないとすぐに忘れた。  キリエルは静かな曲を奏ではじめた。風や夜鳴き鳥の声に誘われ、心の向くままに指を動かす。
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