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女を抱いて身体の欲望と自尊心は満たされていたが、反比例するように大きくなっていた虚しさが少し癒される。
マンドリンのエメラルドの装飾を見詰めて、ため息をつき、演奏をやめた。
立太子の祝いにこれをくれたあいつにこの曲は届かない。
マンドリンを背嚢の上に置いて、ずっとこちらをみていたクロードに向き直る。
「おまえ、本当に16か?」
「そうだよ」
「13くらいにしか見えないぞ」
クロードは鼻を鳴らしただけで何も言わない。
キリエルは頭の後ろに手をくんで目を閉じた。
「俺、10歳になる娘がいる…会ったことないから俺が誰かの親だなんて実感は全くないけどな…」
父のハーレムの女に片っ端から手をつけた。皇妃の女官、父の娘たち…つまりキリエルの異母姉妹の侍女、婢女のすべてにも手をつけた。
そのうちの一人が娘を生んだが、父はキリエルに会わせることなくその婢女を赤子共々隣国の豪族の誰かの嫁にやった。
「最低だなお前」
クロードの侮蔑の声を眠りに落ちて薄れる意識の端でなんとなく聞いた。
翌朝、日の出から間もなく、ミラーに起こされた。
野宿をしないために強行するという。
クロードのキリエルに対する不信感は増していて、魔術師であることすら疑い、同行させるなら試しに魔術を披露するように求めてきたが、ミラーが無闇に使うモノではないと諭し、キリエルもその意に乗った。地脈を弄るのに罪悪感はなかったが、小生意気なクロードに反発を覚えて、求めに応じたくなかった。
朝の世界はまだ白い。
クロードは隣の車屋に行かされ、キリエルは眠気をこらえる気もなく、街路樹にもたれて目を閉じていた。
ミラーはまだ宿の中だった。
「お前だな、人の女房に手を出しやがったのは」
不意に男の怒鳴り声がした。
目を開くと脂ぎった茶色の髪がペッタリと頭に貼付けたような小汚い中年男が見えた。一見、商人のような装いだ。
ヒョロリとした陰湿な目つきの男だった。アルコール中毒らしく手が震えている。
男が詰め寄ってくる。
「知らねぇな。俺の抱いた女の誰かが、やすやすと誰にでも股開くような女で、それがお前の女房っだってんなら、お前が悪い。俺は尻軽女には興味ない」
顔を上げず、へらへらと上目遣いで馬鹿にする。
昨日の女は夫の為に酒を求めたのか。いや、おそらく夫のに殴られたくなくて酒を買う為に身をひさいでいるのだろう。
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