マンドリンを背負った魔術師には気をつけろ

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「貼り紙の絵のマンドリンを持った金髪だったのを俺は見たんだ! ここに入って行くのもなっ!」  宿を示し、男が掴みかかろうとすると、キリエルは身軽にひょいと木に登った。  手の届くところに枝のない木で、男は登れず、体当たりを試みるもびくともしない。  キリエルは木の上でくつろいだ。  しばらくして警吏が数人やってきていて男を複数掛かりで連れて行く。  クロードが驢馬の荷車を引いてミラーと共に歩きだし去って行くのに気付く。  ビターオレンジの精油を指につけると呪文を唱え、事情の説明を求めてきた警吏の鼻の下で中指と親指を擦り合わせた。 「置いてきぼりはないでしょう」  追いついて文句をいう。 「揉め事はごめんです」 「ミラー様、連れていく必要ないんじゃないですか?」  クロードはキリエルを見ずにミラーに詰め寄った。 「揉め事なんて何もなかったさ」  キリエルはへらへら笑う。 「警吏たちは誰もあの酔っ払いの言うことを信じないし、俺があそこにいたのすら覚えてないからな」  こちらを向こうとしないクロードの前で親指で中指を擦ってみせる。  魔術をかけるという意味の仕種だがクロードは意味がわからなかったようで首を傾げた。 「魔術でごまかしたのですよ」  ミラーが振り返り、フードの下で険しく口を引き締めた。 「ですが、私たちを含め、あの場にいた人々はあの酔っ払いが吟遊詩人に絡んでいたのを知っています。幸い、私の目眩ましで誰もあなたが私たちと出発したことを知らないからよいものの…」  ミラーが説教する脇でクロードはキリエルを切り捨てるような動作をした。 「ミラー様、やはりコイツとはここでお別れしましょう」  ミラーはじっとキリエルを睨んだ。  何か答えなければこれで終わりになる。  一瞬、それで良いかと思ったが、もう少しこいつらから益を得ようと思い直す。 「わかった次はないと心得るよ」
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