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前日、町に入れなかった旅人たちがめいめいのやり方で夜明けを待っている。
テントを張る者。馬車に篭る者。マントに身を包んで眠る者。
キリエルも魔術師のローブを毛布代わりに町の壁に背をもたせた。
「にいさん、しけた面してるねぇ。アタイと飲まないかい?」
蒸留酒の瓶を抱えた髪の乱れた厚化粧の女がやってきた。
「金はないよ。宿はあるが…」
キリエルは懐の混乱の薬に手を伸ばした。
既に酒を飲んでいる女は、キリエルの魔術であっさりお金を貰ったつもりになった。
さすがのキリエルも衆人環視に近いところでコトに及ぶ気はしない。
マンドリンを弾き、女に歌わせた。
女は上機嫌で、開門時間になると連れ立って宿を探した。
安宿ではないが風呂のない庶民の宿に目星をつけるとすぐに見つけられた。
女は酒の酔いというよりは混乱の薬がまだ効いているようで視線が定まらない。
キリエルが自分より大きな女形と色気のないチビガキが待っていると告げると蓮っ葉にしなを作って笑った。
「4人でするの?」
「まさか、奴らが気を使って出ていくさ」
ノックしないうちにドアが開き、ミラーが無表情で冷たい目をして見下ろした。
「お~、これは麗しの癒者様、お懐かしゅう」
キリエルは酔っ払っているフリでおどけた。
女は女形をみてケラケラ笑う。
「おやすみなさい」
ミラーはそういって部屋を出て、クロードが慌てて後を追って出ていった。
キリエルはそれを面白そうに見送る。
ミラーが自分を意識している自信があった。
衝立ての向こうに湯のツボがいくつか置かれている。ミラーが術を施しているだろうから、おそらくまだ熱いままのはずだ。
厚化粧の女を押し倒そうとし、忌ま忌ましく舌打ちをした。
コトに及ぶ前に必ず確認するそれを、ここまで確かめるのを忘れていたのだ。
(病持ちじゃねぇか)
国中の女を孕ませると誓いはしたが、病持ちはダメだ。こちらの種が尽きたら意味がない。
女にもう一度混乱の術をかけると帰るべきところへ帰した。
身を清めるとミラーの香りがするベッドで大の字になって眠った。
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