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クロードは馬車が用意できたとの報告のあと、翌朝まで自由時間が欲しいと言った。
ミラーはずっと休みのなかったというクロードを労い、キリエルがいれば大丈夫と請け合った。クロードはほどなく出ていった。
キリエルはクロードが出掛けてからしばらくして多少気兼ねを感じたが種蒔きに行きたいと言うと、まやかしの魔術、部屋に守護魔法をかけるのを条件に許してくれた。
種蒔きは嘘だった。
マンドリンの贈り主に会いに行くのだ。
マンドリンの共鳴を頼りに街を歩くと、労働者の長屋が建ち並ぶ一角に来た。
外れに近いところの1番古びた長屋に至り、裏口に回ると、あいつがいるはずの部屋の窓を覗いている人影があった。
懐に手を入れて、あいつが出てくるのを狙っているようだった。
少し迷ったが、体当たりして剣を抜いた。
暗くてよくわからなかったが、相手はもう剣を抜いていた。
一合、二合、自分より上手だ。魔術を使おうと懐に手を入れた瞬間だった。
長屋の裏口が開いて、中からあいつが飛び出して、キリエルを庇った。
くせ者の剣があいつのジャケットを裂いた。
「アルフ様っ」
「クロード??」
聞き覚えのある声の叫びに、あいつが驚いて言う。
「クロード??」
キリエルも驚き、声が裏返る。
「キリエル?」
くせ者はクロードだった。
アルフに剣を収めるよう言われ、二人とも長屋へと案内された。
狭い部屋だ。
表の扉も裏口もこの部屋にあり、炊事場だった。
テーブルと椅子が二つ。
扉のない隣の部屋はベッド一台でいっぱいになっている。
こいつと会う時にはだいたいこんな部屋だ。
誰も椅子に座らない。
マンドリンの贈り主、アルフが至極満足げにクロードを見下ろしているのが面白くない。
「だいぶ筋肉がついてきたみたいだな」
アルフがテーブルに三つグラスをおいてワインを注ぐ。
「アルっ、こいつはお前を狙っていたんだぞ」
キリエルは苛立ちを抑えられず、キリキリと歯軋り交じりに言った。
アルフは飄々と何も気にしていない。
「大丈夫だよ。クロードに渡した短剣は鎖を切れない」
「短剣じゃなかった!」
クロードが抜いていたのは背に負った剣だ。
「こいつは一体何者なんだよ」
キリエルは部屋の奥で小柄な身体を更に小さくしているクロードを指差し、アルフに詰め寄った。
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