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アルフは悠然とワイングラスをとった。
「私の傭兵候補さ。いや、クロード、賭けはお前の勝ちだね。今夜からうちに来るかい?」
気持ちの高ぶりが治まらない。アルフに適当にあしらわれ、怒りが増して頭がくらくらした。
「今の仕事を放り出すわけにはいきません」
二人にしか分からない内容の会話が許せなかった。
「ところでお前たちは、顔見知りなんだな?」
ふと気付いたようにアルフが話題を変えた。
「一緒に旅してます」
クロードの声に不本意であるという響きがあった。
アルフがキリエルに向き直る。面白がっているのがわかってバツが悪く、顔を背けた。
アルフは少年の頃みたいに声をたてて笑い出した。
「クロード、お前の雇い主はよほどの美人か?」
「はい」
クロードが侮蔑の目でキリエルをみる。
「女形だよ。ガキと女形じゃ悪さも出来ねぇよ」
ふて腐れる。ミラーにちょっかい出してることもないような言い種だが、見透かされてる気がした。
「クロードに手をだしたら、いくらお前でも許さないよ」
そう言ってまだ笑っているアルフの目が少しも笑っていない。
アルフのその目に胸が締め付けられる。
前にもこの目を見た。 アルフの姪に手を出さぬように言われた時だ。
「ガキに興味ないのは知ってるだろ」
アルフにとって、クロードは溺愛する姪っ子と同じだと言うのか。
あのまだ幼い子供と…。
キリエルはクロードを憎々しく睨みつけた。
その眼にクロードは戸惑いをみせる。
「あの…アルフ様とキリエルは…」
「あ~…、ん?」
アルフは迷う素振りでキリエルをみた。
皇子であるということに触れるべきか気を使っているのだ。
「なじみの客だよ」
キリエルは窓の外に視線を反らして言った。
嘘ではない。キリエルはアルフから情報を買うためにここに来たのだ。
幼なじみと言うだけで良いのに、言わなかった。
「そうそう、これからキリエルと商いの話があるんだ」
アルフは笑いをこらえるように言った。
「クロード、久しぶりに会えて嬉しかったよ」
別れの言葉を口にしながらアルフがクロードを愛しそうにみているのがキリエルは面白くない。
「この後は魔都に向かう予定だ」
行く先を聞いて、またしばらく会えないという現実に押し潰されそう気分になった。
この親友を自分の手元にずっと置くことが出来ないのが哀しい。
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