24人が本棚に入れています
本棚に追加
クロードを慈愛の目で見送るのが腹立たしい。
「あんなガキにつけられるとは、炎のアルフも落ちたもんだな」
「気付いていましたよ。ついて来させたんですから…。賭けをしていてね。君と打ち合いになったのは想定外でしたけどね」
アルフの微笑にキリエルはカッと熱くなる。
「背中っ」
「え?」
「大丈夫なのか?」
「たぶん軽い打ち身にはなってるかな?」
アルフは優しく笑う。
幼きあの日の出会いから、キリエルはアルフが他人にあれほど柔らかな視線を向けるのを見たことがなかった。
激しく嫉妬していた。
自分がアルフの1番になることは十何年も前に諦めたと思っていた。しかしそれはアルフが他人に関心を示さないから平気だと思えただけで、アルフの関心を引く人がいる事実に打ちのめされていた。
「本気なのか?」
確認せずにいられなかった。
「ん?」
アルフは苦しげなキリエルをしばし見詰め、側に来くると抱きしめた。
「キキ、大丈夫だよ。クロードの本気は私ではない」
違う。誰がアルフに本気でも良い。
アルフが誰かに本気になって欲しくない。
キリエルは抱きしめ返したいのをぐっと堪えた。
「ところで、沿海州で嫌な噂を聞いた」
アルフはキリエルから離れて椅子に掛けた。
キリエルも向かいに座る。
ここに来た理由を思い出す。
今のアルフは商人の姿を借りた情報屋だ。
「皇帝の暗殺計画」
「親父お抱えの魔術師たちがたくさん飛んでいったのはそのせいか?」
ワインを飲んで渋い顔をする。
「今、親父を殺して得するのは…俺だよ」
「そう…君を御し易いと侮ってる誰かの計画」
「どうせガスパール伯爵だろ」
キリエルの義理の伯父。皇妃の兄だ。
アルフは首を横に振った。
「証拠はまだ…」
キリエルは爪を噛んだ。
アルフはその手を抑えて包む。
「キキ、私が必ず調べあげる」
最初のコメントを投稿しよう!