帝都へ

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 約束のノックをするとクロードが扉を開けた。  クロードの姿を見たら怒りがこみ上げて抑えがきかなくなり、扉を閉めるのを確認すると殴り掛かった。  クロードは察していたのか難無くかわす。  キリエルは無言で次々に拳、脚を繰り出した。  しかし、手刀で応戦するクロードが上手で、ベッドの方に追い込まれ、脚をかけられベッドに倒された。  馬乗りになったクロードは手刀を構えてキリエルを睨む。 「何なんだ?」  ミラーを起こさないよう声を潜めて問い詰める。 「お前はアルに傷を負わせた」  クロードが動揺したのがわかる。 「軽い打ち身と笑ってたが、俺は笑えねぇ」 「確かに笑えない」  クロードの声が震えていた。 「二度とアルフに剣を向けるな」 「マウントとられながらほざくな」  怒りに任せたクロードの手刀が顔めがけて振り下ろされて、キリエルはとっさに懐にいれた手が触れた精油が何かを確認せずに、術をかけた。 「おまえっ」  クロードはキリエルから飛び退いた。 「最低だっ」  顔を真っ赤にして怒鳴り、そのまま部屋を飛び出して行った。  白檀と没薬の香り。  使い慣れたそれを、効果も考えずに使ってしまった。  それがクロードにどれだけの苦しみを与えたか、さすがのキリエルにもわかった。  好きでもない男の上で、身体だけが欲情しているのだ。  その矛盾の辛さと、欲望を発散させ得ない辛さと…。  快楽を与えられたとしても気持ちは伴わない。  今まで犯した女たちの気持ちに関しては、全くその考えに至らなかったキリエルだが、間違いなく自分を嫌悪しているはずのクロードの表情で、はじめてそれに気付いた。    視線を感じて振り向けば、ミラーが起きて、半身を起こしていた。  キリエルは飛び起きて、ミラーの上に跨がり、首に手をかけた。  アルフへの想い。  想像もしたことのなかった罪悪感。  それを見透かされた気がして、ミラーをそこから消し去ってしまいたいと思った。  ミラーはキリエルの頬を両手で包むと引き寄せて口づけた。  唇に流れ込んできた不思議な温もりに、この癒者が遊びではしないという意味を感じた。 「ごめんなさい」  キリエルは泣いた。  ミラーはキリエルの身体に触れて、癒しの術を施した。  その心地好さにたゆたい眠りについた。
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