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「この腐れ外道がっ」
寝具を引かれ、ベッドの下に叩き落とされた。
すでに朝になっていた。
クロードの罵りの言葉とともに次々に繰り出される蹴りや手刀を防ごうとするも、やられる一方だった。
ほてった身体を冷ますために、クロードは夜通し町をさまよったという。
反撃はした。しかし効果はなかった。
キリエルは魔術を使わなかった。
そして最早なんの抵抗も出来ないくらいにのされて、仲間には二度と魔術を使わないと誓った。
朝食を持って戻ったミラーが手当てをしようとするのをクロードが止めた。
キリエルの自業自得で、ミラーの体力を余計なことで消耗する必要はないと言い張った。
それから朝食もそこそこに出発となった。
御者台で不本意にもクロードとキリエルは並んで座った。
毛布や藁、大量の食料などを積んだ荷台にはミラーが座るスペースしかなかったのだ。
落とすのを恐れて、マンドリンは荷台に置いた。
「お前には年上を敬うっていう気持ちはないのか」
キリエルは腫れた頬を冷やしながらぼやいた。
「年上らしけりゃな」
クロードはまだ怒っていた。
「お前、ガキのクセに俺より腕も、脚も、太えじゃねぇか、弱者を労れ」
袖をまくって、馬を御するクロードの腕と比べる。
「僕はガキじゃない」
クロードがムキになって言い返した時、二人の後ろの幌をめくってミラーが顔をみせる。
「何か臭います」
キリエルは不安定な御者台に立ち上がる。
「砂蟇(すなま)だ。クロード、3、数えたら馬車を右へ」
頬を冷やすのに使っていた濡れた手ぬぐいを広げてクルクルと紐状に絞ると唇を寄せて呪文を唱える。
クロードが3を数えて馬車の向きを変えると同時に前方に投げた。
白い大蛇が飛んで行く。 小さな馬車ほどの巨大なヒキガエルを白蛇は飲み、消える。
馬車は石で舗装された街道を外れて砂地を塵煙をあげて走り続ける。
「追っ手ですか?」
クロードが幌の中へ声を掛ける。
「あれはこのあたりにはよくいるモンスターですが…。クロード、とめて…」
「街道のど真ん中で擬態してやがった」
キリエルは爪を噛んで考える。
「魔術を使ったのは失敗だったかも知れない」
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