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寒さを防ぐために魔術師の装いでフードをすっぽり被れば、田舎の町を人知れず抜け出すのはわけもない。
しばらくするとスラッジスライムの臭いがしてきた。
地脈の気が乱れると生まれる魔物だ。
初級の魔術しか使えないと地脈の力を利用した後の修復が出来ずに発生させてしまう。
キリエルは上級魔術もいくつか使え、ギルドには中級の魔術師として登録しているが、地脈の修復は苦手で、あえて何もしない。
ここ数日、地脈をいじり過ぎたと反省するも、誰か魔物に遭遇して困っていたら親切を押し売りして、金をせびろうと考えて臭いをたどって歩いた。
夜が明け、腹が空いてきて、歩くのをやめて草むらに寝転んだ。
残り僅かな干し肉を調理もせずに噛み締める。なるべく小さく噛み切り、固いそれを時間をかけて食べて空腹をごまかすのだ。
ガムを噛むように肉を口の中で転がし、地脈の気の流れと風の音に耳を澄ます。
何時間かが過ぎた。
二つのスライムが巨大な黒い疾風となってやってくる。その後ろに更に大きな気配。
その行く先に意識を凝らして見れば、二つのスライムを弾き返すドームがあり、その中に人の影。魔術師はいない。癒者か呪術師か。
獲物が現れたとキリエルはほくそ笑む。
最初の二匹はやり過ごし、巨大な三匹めに呪文を投げかけるとスラッジスライムは動きをとめ、地脈の中にとけて行く。
人影は白い癒者のローブと、その中から現れた茶色の少年の二人だった。
肉を飲み込み近付く。
艶やかな黒髪の乱れた癒者が素早く少年の耳に何やら囁いた。
少年は頷き、キリエルを睨みつけた。
「な~んだ、女形の癒者にガキか」
美しい顔だが、キリエルより背の高い癒者はあきらかに男だ。女にありつけないとガッカリしながら近付き、ローブを脱ぐ。
金品をせびるのに魔術師であることよりも盗賊然とした方が効果があると考えた。
「魔物退治の報酬をいただきたい」
言葉は丁寧だが、ちゃらちゃらした軽薄さで話す。
キリエルの美しい金髪の巻き毛と、空のような青い瞳には真面目な表情をすれば高貴さがあるのだが、意識して嫌らしい顔をしてみせた。
金に輝く虎皮の胴衣と股間が強調される灰色のタイツ。
かぶいたチンピラに見えるよう意識して、自分の中心の納まりを直し、背中にあった背嚢とマンドリンを前に回して、ローブを納めた。
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